その五芒星は結界か-アートから起動する経済圏
ガスマスクが、マイクになった。
声が届く射程を拡張するアートを、刮目してきた。
アートは、社会全体の意識の位相を変える。したがってギャラリーや美術館は、革新性や先見性のショーケースだ。そう思ってる。
長坂真護さんはアートによって、ガスマスクをマイクに変えた。
長坂真護展 Still A “BLACK” STAR。
うめはんこと阪急うめだ本店9階で、ガスマスクの実物を生まれて初めて観た。
身内が全身麻酔を受け酸素吸入マスクを付けて病室に戻ってきたあの時の光景のような、静かなる強打に近いものを受けた。
アグボグブロシー、ガーナ。
Google Earthで事前に視た。地理的には日本からは遠い、遠い国。大学や美術館、政府の施設もあるエリアと見受けられた。
そのエリアに山積されるという、作品の「素材」。
それは、さながら化石へと羽化し始めたような態様の、私たちの日常の欠片だった。ごく身近な家電やリモコン類、ゲーム機、マウスやキーボードなど、パソコンやその周辺機器の残骸が彼の地の現在の姿を像として結ぶという、このギャップたるや。
見覚えがある、が
身に覚えがある。
に変わる。
見覚えしかない大手メーカーの品で埋め尽くされた、見覚えしかない顔立ち
かのUberのビジネスモデルのインスピレーションになった点でも名高い、カルロ・ラッティによる廃棄物をトラッキングするメディアアートの、その先のリアル。
地元の「スーパースター」の1人による、ゾウさんの絵に心惹かれて何度も遠近から鑑賞した。こんな描線や色彩の選択は、わたしにはもうできないや。
日曜日まで、作家さんご本人が会場内で公開制作もなさる模様。
画像引用元
ところで先日、地上波テレビの「月9」枠で、「クレイジージャーニー」が放送された。スラム取材という文脈からも番組内での、丸山ゴンザレスさんのコメントを作品たちと重ね合わせていた。
「(パナマのように)ここまで発展した都市には、必ず歪みが生じる」というような内容の、指摘が刺さったままのタイミングでの鑑賞となった。
実物の物量、情報量は一見の価値があった。ガーナの方々と私のありふれた日常とは、地続きだ。
非力でもせめて、この世の中の無数の「オメラス」を自分は知らないし、想像さえもできない。この戒めだけは、心にピン留めしていく胆力は備えていたい。カエサルとともに。
“libenter homines id quod volunt credunt”
「人間ならば誰にでも、現実のすべてが見えるわけではない。 多くの人は、見たいと欲する現実しか見ていない」
年々、自分がいかに無知かを思い知るばかりだ。
分配とトレードオフ。
この命題に、それなりに向き合ってきた。
観たい景色をチャリティーだけで終わらせたくなくて私も色々、足掻いてきた。
レバレッジを見直そう。意気に感じた。
#長坂真護
#スラム撲滅
#うめはん
#阪急うめだギャラリー
#ガーナ
#e-waste
東京では、上野の森美術館で11/6まで開催中とのこと。
長坂真護さん公式ウェブサイト
Black Star Square
#googleearth
アーシュラ・K・ル・グィン
「オメラスから歩み去る人々」収録
風の十二方位(ハヤカワ文庫)
クレイジージャーニー