自分の名前も忘れるほど

あめちかる storyteller 鳥山美由紀( とりやまみゆき Miyuki TORIYAMA ) のブログです。

ゆるがせにしないということ

アニメ「平家物語」、映画「犬王」とにわかに平家物語づいている私。

国語で学んだものがたりの導入部分は、いまだに誦じられる。名場面とされる「扇の的」はじめ、折々に描写される鎧装束のくだりが、すぐ立ち昇った展示を鑑賞してきた。


梅田阪急百貨店9階で開催中の、「日本の染織の1400年」展は美事だった。紋様に込められた念と職人さん方の練度による昇華は、美の底に沈殿するおどろおどろしさすら漉く。

 

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画像引用元
https://www.hankyu-dept.co.jp/honten/h/gallery_senshoku/index.html


私は特に、天平時代の染めを見るたび、極めて分かりやすくしずる。垂涎ものとはよくいったものだ。

色彩感覚といい、紋様の不思議さといい、味わいがある。

それらは、顕微鏡で初めて確認した葉緑素の流動、望遠鏡で初めてとらえた青白い恒星、そうしたミクロとマクロの美の両極に接続される心地がするのだ。


今回の展示の白眉は、古代草木染を復活させた試み。これを刮目することを求めて、会場に伺った。


会場正面に鎮まるは、華やかな鎧。

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途端に平家物語の高貴な人の鎧装束の描写が、脳内に溢れ出す。それは人物造形であり、プロファイルであり、その人の心意気の描写だった。

歌舞伎でもそうだが、対峙した相手の風貌から「器量」「人格」を見抜くくだりがよくある。ただものではない、これはひとかどの人物だ、と。

武道でも、向き合っただけでお互いの力量が判るという。


美は自らの分を保ち、場に同期し、諍いの予見すら制する。究極の自己肯定感の装置だ。

装いは、時代の気分や内面との接続かつ拡張だ。着こなせてこそ、それは倍音となって視るものに響く。


古代草木染のコーナーには、染料となる植物のサンプルも展示されていた。

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ご担当の方の爪先が美しかったので、写真に収める許しを得た 染料は禁色の「麹塵」

 

たまたまこの日の朝、恒例の一家総出の梅干しの仕込みをした。農家さんから軸付きの赤紫蘇をいただく。軸から葉を千切り、水洗いする。それだけで水は濁る、追加の水を注ぐと泡立つ。てのひらを覆う独特の感触。水切りすると現れる葉の弾力。塩もみすると海苔のように深まる赤色。一気呵成に始末し、甕に容れる。

梅のたぷんとした可愛らしい顔立ちの上に、赤紫蘇を乗せて香りが交わる瞬間も美しい。

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それらの手触り、匂い、色のうつろいを、紫根のサンプルからも容易に想像できた。

 

染料たちは、さながら漢方薬のようだった。染めの工程も、煮たり、さらしたり。頃合いを狙い続ける、梅干しなどの仕込みものと同じだ。


特に思い入れのあるものはありますか?とヒントを乞うとご案内頂いたのは、「むらさき」。奈良の萬葉植物園で拝見したことがある。6月に小さな、控えめな白い花を咲かせる。梅雨のあるこの国で、雨に弱いという繊細な植物のため、栽培はきわめて困難らしい。

https://www.kasugataisha.or.jp/manyou-s/guide/


文字通り耕し、貴重な種を預かり、蒔くところから復元されたという古代染めによる鎧は、まさにアートピース。写真に移し取りようのない色調なので、眼に焼き付けた。

 

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護符のよう。あらかじめこの姿で存在したかのような佇まい

白色の当て方も、知りたい


このような、ゆるがせにしない仕事にはいつも心揺さぶられる。

個人的に成人式の振袖は古代紫を選ぶほど、紫色に魅了され、アイデンティティも感じている。周りが赤やピンクばかりの中、「むらさき」の選択肢自体が僅か。そこから気に入りを見つけられた時は、祝祭を受けた心地になったほどだった。

再現された「むらさき」は朝の光、襖越しの光、蝋燭の色の下でも観てみたいにおやかさだった。


ところで古気候学によれば、平安時代は温暖だったらしい。そういえば絵巻でも、御殿の冬の描写で素足だったことを覚えている。

 

会場には、細尾さんによる鉱物のプレパラートのような"sediment"のパネルもあった。

いかにも、なよびか。触れてみたかった。

https://www.hosoo-kyoto.com/jp/collection/9170.html

 

蛇紋岩バージョンもお願いしたい。

地殻のダイナミズムを調べた時、研究論文の中には「特筆すべきものがない」という意味の記述もあったが。

 

蛇紋岩の存在が、気になって仕方ない。

私のイメージでは、水脈なのだ。そして、海綿のような緩衝的機能の繊維質も想起させられる。

https://www.mindat.org/min-48762.html

美しい。日本では、兵庫県の養父特産の蛇紋岩米が有名。