自分の名前も忘れるほど

あめちかる storyteller 鳥山美由紀( とりやまみゆき Miyuki TORIYAMA ) のブログです。

今様の射程

売野雅勇。この四文字は、私にとっては例えばARMANIのようなブランド名である。
子供の頃は、歌番組が数多くあった。
私のように特段、音楽に詳しくなくても歌謡曲は誰もが口ずさめた。日本中がヒットメーカー売野さんの詩と世界観に、自然と浸っていたといっても過言ではない。

本年が作詞活動40周年とのことで終日、Spotifyで売野さんのプレイリストを浴びてみた。

 

通底するのは紅茶に初めて、上等なブランデーを垂らしていただいたときの、洗練と大人の愉悦の薫り。なにより、品がある。

最近も、THE FIRST TAKEで郷ひろみさんの「2億4千万の瞳」を聴いたところだった。郷さんの歌唱力と空間支配力はもちろんのこと、楽曲の強度を改めて思い知った。

売野さんの数多ある綺羅星のような作品群で個人的に特に印象に残っていたのは、中谷美紀さんの「食物連鎖」だ。


中谷さんのクリスタルのように、硬質な透明感をもつ中性的あるいはアンドロイドのように整った美貌、入射角が神話系の歌声。

アルゴリズムに緻密に則った無機的な介入に覆われているようで、有機的。
当時は何が起こったか判らなかった。こういう洗練された世界観が生まれたということ、そしてこの化学反応が心地よいことだけは解った。
久しぶりに聴き直してみて、その鮮度と解像度が変わらないことに驚いた。

 

さながら着物の意匠だ。
綸子などで幾何学模様の上に、花や草木といった有機物を重ねて描くデザインは、日本独自だという。坂本龍一さんが無機的な音を、売野さんが有機的な詩と世界観を、中谷さんがそれを響かせた。
表現者の凄みを改めて。

 

https://open.spotify.com/album/0rAypOqCpgSzKzuNRfVsux?si=TS9xtpE9S9uwYizyjhmyPQ&dl_branch=1

 

 

時代の気分と詩人としてのご自分の世界観、日本語の美しさと余白、佇まいを美事に蒸着してくださり、知らぬ間に私たちの意識の位相を上げてくださってきたこと、ヒット曲をヒット曲として陳腐化させない普遍性も担保し続けてくださったこと、半世紀近く時代の最先端と最前線におられ続けることに敬意を表する。
音源を聴いて、詩を拝読してみて、向こう百年の射程もとらえてくださっている確信がもてた。
それも意気に感じる。
益々のご活躍を。

 

追記

特にガンダム作品の歌詞はほぼ、アカシックレコード

 

 

f:id:amechical:20211005131020j:image